追記-『われわれはなぜ死ぬのか』

われわれはなぜ死ぬのか ――死の生命科学 (ちくま文庫)

われわれはなぜ死ぬのか ――死の生命科学 (ちくま文庫)

本来『死』のイメージが付きまとう作品を読むのは嫌いで、これまで避けてきたのだが、今回の災害や出来事を期に少し読んでみる。
恐怖の根源はおそらく『死』なのだろうから。
本書は観念的ではなく、学問的な(遺伝子、細胞レベル)話。
『死』を理解(可能な事かどうかわからないが)しようとするなら、むしろここ(学問的な意味)からはじめるべきだと思う。
文章が読みやすく、分かり易く書かれているけれど、生命科学の視点から、というより細胞や遺伝子に関する部分のお話が中心なのでガッツがないと読みきれないかもしれない。
また、この分野の知識がないと一度では吸収できない部分が多い。自分も全ては理解できていない。
話のポイント(自分が理解した範囲)は、
・『死』は遺伝子にあらかじめ組み込まれている
・細胞の死『ネクローシスアポトーシス』(特にアポトーシスについて)
・生命に危険を及ぼす細胞(癌細胞、ウイルス感染、免疫反応)を殺す(自殺する)アポトーシス
・生のためのシステムが『死』

自分なりに要約すると、
細胞の死には外的要因による『ネクローシス』と、能動的な死である『アポトーシス』がある。
本書では『アポトーシス』に関する部分を中心に解説されていて、それは、『生』を維持するためになされる『死』であると。
癌細胞や壊れてしまって修復不可能なDNAを殺す事で、生命体を維持するし、次世代の生命に正常な遺伝子をつないでいる。
こういう理解。

作者の言葉で
「死は生の終着点のように思われているが、決してそのようなものではない。死は生を支え、生を生み出す」
とあるが、このフレーズを味わうためには一読の必要がある。
自分は良いフレーズだと思ったし、力付けられた。
作者の柳澤さんは研究者であるのだが、ご自身も30代から病に苦しまれていて、ご自身、『死』と向き合われた時期があったのだろうと思う。

一つの『生』の裏側では数え切れない『死』が発生している。システマチックに。
『死』がなかったら『生』もない。
『死』が『怖くない』とはいえないけど、『仕方ない』ぐらいは考えられるようになる本ではないか。
それに『死が怖い』というのは正常な事で、その抑制がなかったらとんでもない事になるのは容易に想像できる。
たぶん、それ(死への恐怖)もシステムだ。