黒澤映画

黒澤明の映画はカッコ良くて苦い。


内田樹さんの『七人の侍の組織論』を読んで、実際に七人の侍を見たくなった。
『七人の侍』の組織論 - 内田樹の研究室


予想以上に面白くて、他の作品もどんどん見ている。
これならBoxで買ったほうが良かったのではないかという状態。
単純なハッピーエンドや、感動シーンで終わらない苦さが良いなぁ。


以下、これまでに見た作品の感想。(多少ネタバレ有るかも)
(★は苦さ☆はカッコ良さ)


七人の侍】★☆☆
やっぱり主役は農民なのだと思う。描かれ方が凄い。
カッコ良くないし泥臭いのだが、エネルギーに満ち溢れている。
「死んでも死なねぇぞ」みたいな。
作られた時代背景のせいなのか製作側の個性なのかはわからないが、これを見ていると、現代はまだまだ余裕があるなぁと思う。カッコを気にする余裕があるうちは、まだまだ大丈夫なのか、カッコをつけているのが命取りになるのかわからないけれども。


侍の中では七郎次がカッコイイなと思った。
「ついてくるか」と聞かれて、即答で一言「はい」。
「死ぬかもしれんぞ」と言われて無言でニヤリと笑うのみ。
カッコイイ、痺れる。
ドカベンで言えば山田太郎不言実行、言いなりのようで芯がある。
本来のイエスマンとはこういう人の事を指していたのかもしれない。
(ちなみに菊千代は岩鬼。こんな話を後輩にしたら僕らの世代はドカベン知りませんと言われた。漫喫行って読めよ。ドカベン。)


一つ残念なのは七郎次が結構ふっくらしている事。
食うや食わずのはずなのにね。
まぁ、そこを含めて愛するべきキャラクター。


【用心棒】☆☆☆
純粋な娯楽映画。
話に味があるわけでも、感じることがあるわけでもない。
ただただ、カッコイイ。ひとつひとつのカットや三船敏郎の台詞が。


一番はやはり、最後の決闘が始まるまでのシーン。あの画は凄いと思う。
何回見てもカッコイイ。


台詞はいろいろあるけど、今のところは
「切られりゃ痛ぇぞ」
がお気に入りだ。


ロボットアニメや戦隊物の主人公達は、必殺技の名前を叫ぶ。
スタンハンセンは、ラリアットの前にサポーターをさする。
予告動作だ。カッコイイ。
だが、世界の三船は、やられた後どうなるかまで事前に説明してくれるのだ。
何たる余裕。すげーカッコイイ!
死ぬまでに一度使ってみたいが、使うときは自分が犯罪者になっていそうなので、おそらく使う機会はないだろう。残念。


でも、あれですね。
最近「切られりゃ痛ぇ」事を知らない人が増えている気がしますね。


【天国と地獄】★★☆
2部仕立てになっていて、前半と後半で違う映画を見たようなお得感がある。
最後が苦い、苦い。
「君はそんなに不幸だったのかい」という台詞は見ている人間にもささる。
そう聞かれたら、「不幸ってほどでもないっすね、そういえば」と答えるしかない。


今見ると、警察がそんな事しちゃっていいの?という部分も多いのだけれども、一つ一つの判断や行動が人間臭くて、感情がベースにある。決まり通りこなしている感じがしない。どちらが良いのかは悩むところだけれども。
例えば冤罪をテーマにした映画をとったらどういう風に描かれるのだろ?
そういう作品もあるのかな?


【生きる】★★★
暮れになると毎年、忠臣蔵や、なっがい時代劇をやっているけれども、かわりに、これを毎年放送すると良いのではないかと思う。
暮れと正月、どちらかは浮かれて良いと思うけど、浮かれっぱなしもどうかと思う。
暮れは、一年を生き延びたことを祝って、浮かれて、正月はこの映画を見て、なんとも言えない気落ちで、新しい年に望むというのはどうだろうか。
とはいっても、本当に沈むんだよなぁ。いい話なんだけれども。


個人的には、有名なブランコのシーンよりも、その後の同僚達のうすっぺらい決意と、その後の変わらぬ毎日の方が印象に残る。なんて苦い話なんだろう。
今つくるなら、ああは描かれない。
みんな見違えたように生き生きと働いている様になってしまうと思う。


最後まで、主人公と周囲の気持ちがズレたままというところも苦い。
主人公にとっては、アウトプットを出す事が大事だったわけで、それどう評価されようが、手柄を奪われようがどうでも良かったし、それに周りが感化されようがされまいがもどうでも良かった。と言うより気にしていなかった。(ように感じた)
通夜に集まった人達の会話の一つ一つが、的外れで歯がゆい。
主人公を慕っている部下の発言(主人公をたたえる発言)にしてもズレている。
悪意がズレている事はなんともないけど、善意がズレているのは耐え難い。
「人間と人間は、こんなにも分かり合えませんよ」と言われているようで苦い。


個人的には、最後は
「お父さんは最後に打ち込める物が見つかって、完成できて良かったね。うらやましいね。」
で送ってあげたかった。


(この主人公はカッコイイのだけれども、☆は無邪気なカッコ良さなので星無し)


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